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遺伝性疾患とは
遺伝性疾患とは、遺伝子や染色体の異常が原因となって発症する病気のことです。親から子へ遺伝する場合もあれば、受精の過程や出生前後に新たに生じる場合もあります。遺伝性甲状腺・副甲状腺疾患のほとんどは、1つの遺伝子の異常が原因となる単一遺伝子疾患とされていて、常染色体顕性(優性)遺伝、常染色体潜性(劣性)遺伝、X連鎖遺伝の遺伝形式を取ることが多いです。
頻度はそれほど高くはありませんが、TSHβ異常症、TSHR異常症、TPO異常症、DUOX2/DUOXA2異常症、Tg異常症、甲状腺ホルモン不応症(TRHβ)、家族性非自己免疫性甲状腺機能亢進症、NIS異常症、Pendred症候群、DICER1症候群、KEAP1異常症、MEN2(甲状腺髄様癌)、篩型(モルラ型)乳頭癌(家族性大腸ポリポーシスに随伴)、Cowden症候群、MEN1、副甲状腺機能亢進症・顎腫瘍症候群(HPT-JT)、家族性孤発性副甲状腺機能亢進症(FIHP)、家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)等が挙げられます。
遺伝子検査と遺伝学的検査
遺伝子検査と遺伝学的検査は似た言葉ですが、意味は異なります。遺伝子検査は、特定の遺伝子やその変異を調べる検査の総称で、主にがん細胞などに生じた遺伝子異常を調べ、診断や治療方針の決定に用いられます。体細胞変異を対象とすることが多く、本人の体質や家族への影響を必ずしも意味しません。
一方、遺伝学的検査は、生まれつきの遺伝子(生殖細胞系列)を調べ、遺伝性疾患や体質、家族への遺伝の可能性を評価する検査を指します。結果は本人だけでなく家族にも関係するため、実施には十分な説明と遺伝カウンセリングが重要です。つまり、治療目的の検査が「遺伝子検査」、遺伝や家族への影響を扱う検査が「遺伝学的検査」と考えると分かりやすいです。
遺伝カウンセリング
遺伝カウンセリングとは、遺伝や遺伝性疾患に関する不安や疑問について、専門的な知識をもつ医師や認定遺伝カウンセラーが、相談者と対話を重ねながら理解と意思決定を支援する医療相談です。遺伝性疾患の原因や遺伝の仕組み、発症や再発の可能性、遺伝子検査の内容やその利点・限界などを分かりやすく説明します。
また、相談者や家族が抱える不安、迷い、心理的負担にも配慮し、価値観や考え方を尊重することが重視されます。検査や治療を受けるかどうかを一方的に勧めることはなく、本人や家族が十分に理解し、納得したうえで自ら判断できるよう支えることを目的としています。
遺伝カウンセリングの流れ
遺伝カウンセリングは、一般的に次のような流れで行われます。
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1
- 相談の申し込み・予約
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医療機関や専門外来に相談し、カウンセリングの目的や主な相談内容を伝えて予約をします。

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2
- 事前情報の収集
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本人の既往歴や家族歴(家系図)、これまでの検査結果などを確認し、相談内容を整理します。

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3
- 初回カウンセリング
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遺伝や遺伝性疾患の仕組み、考えられる疾患、遺伝形式、発症や再発の可能性について、専門家が分かりやすく説明します。

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4
- 気持ちや価値観の共有
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不安や疑問、将来への考え方などを話し合い、相談者の思いを大切にしながら整理します。

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5
- 選択肢の提示と検討
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遺伝子検査を受ける・受けない、今後の対応方法など、考えられる選択肢を提示し一緒に検討します。

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6
- 意思決定の支援
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最終的な判断は本人や家族が行い、カウンセラーはその決定を尊重し支援します。

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7
- 必要に応じた継続フォロー
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検査後の結果説明や心理的サポートなど、状況に応じて複数回のカウンセリングが行われます。

遺伝学的検査の注意点
遺伝学的検査は、本人の遺伝子を調べる検査ですが、その結果は血縁関係にある家族にも関係してくるという特徴があります。遺伝子は親から子へ受け継がれるため、ある遺伝子の変化が本人に見つかった場合、同じ変化を家族も持っている可能性があります。そのため、検査結果は家族の将来の発症リスクや、予防・検査を受けるかどうかの判断に影響を与えることがあります。
また、本人が知った検査結果によって、家族に病気の可能性を伝える必要が生じることもあり、心理的な負担や人間関係への影響が生じる場合があります。一方で、早めに情報を共有することで、家族が適した医療や生活上の対策を取れる可能性もあります。このように遺伝学的検査は個人だけの問題ではなく、家族全体に関わる側面があるため、検査を受ける前に十分な説明と配慮が重要です。
遺伝学的検査の実施
遺伝学的検査はさまざまな遺伝性疾患の遺伝子を調べるため対象が広くなります。しかし保険適応とされている遺伝学的検査は限定的で、甲状腺・副甲状腺領域ではRETやMEN1しかありません。それ以外の検査費用は全て自己負担となり高額です。遺伝学的検査は血液検査ですが、特殊な外注検査となるので事前の準備期間が必要です。検査を行う際には診察日とは別日に受診して採血を行い、結果が届くまでに時間がかかります(1カ月〜数カ月)。結果は医師より説明しますが、必要に応じて遺伝カウンセリングを行います。
甲状腺癌の遺伝子検査
甲状腺癌の遺伝子検査とは、腫瘍に生じた遺伝子異常を調べ、診断・治療方針の決定や予後予測に役立てる検査です。一部では生まれつきの遺伝的背景が関係する場合もあり、目的に応じて検査の意味が異なります。
甲状腺癌で行われる遺伝子検査の種類
- 体細胞変異(腫瘍遺伝子)検査
がん細胞のみに起こった遺伝子変化を調べる検査で、治療選択が主な目的です。
- BRAF V600E変異
乳頭癌で高頻度。予後や分子標的治療の判断材料になります。 - RET融合遺伝子
乳頭癌でみられ、RET阻害薬の適応判断に重要です。 - RET遺伝子変異
髄様癌でみられ、RET阻害薬の適応判断に重要です。 - RAS変異
濾胞癌や低悪性度腫瘍でみられます。 - NTRK融合遺伝子
まれですが、TRK阻害薬の治療標的となります。
これらの遺伝子変異はオンコマインなどの遺伝子パネル検査で一括解析されます。
- BRAF V600E変異
- 包括的がんゲノムプロファイリング(CGP)
進行・再発甲状腺癌では、多数のがん関連遺伝子を同時に解析し、治療薬や治験の可能性を検討します。
この際、二次的所見として遺伝性腫瘍症候群が疑われる変異が見つかることもあります。 - 生殖細胞系列遺伝子検査(これは遺伝学的検査)
生まれつきの遺伝子変化を調べる検査です。
- RET遺伝子検査
髄様甲状腺癌では必須で、多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の診断・治療に直結します。 - PTEN、APC、DICER1 など
家族性・若年発症例で検討されます。
これらの遺伝子変異は本人だけでなく家族にも関係するため、遺伝カウンセリングが重要です。
甲状腺癌の遺伝子検査は、診断・治療の個別化を進める重要な手段です。特に髄様癌や進行例では臨床的意義が高く、検査の目的や影響を理解したうえで、甲状腺専門の医師や遺伝カウンセリングと連携して行うことが大切です。
- RET遺伝子検査
甲状腺癌遺伝子検査の実施
分子標的治療薬の選択、予後や再発リスクの評価等を目的に保険診療として遺伝子検査(オンコマイン、メブジェン3キット)を行います。遺伝子検査は甲状腺癌の腫瘍そのものを提出するため、当院で行う場合には、手術を行った施設に依頼し、摘出した組織のブロックもしくは新規に作成した標本を提出していただくことになります。これを外注検査に提出しますが、結果は約2〜3週間で届きますので医師より結果を説明させていただきます。結果次第では遺伝学的検査を追加でおすすめすることもあるので、その際には遺伝カウンセリングを行います。
CGPはがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院でしか行えないため、CGPを希望される方は四国がんセンター、愛媛県立中央病院、松山赤十字病院、愛媛大学医学部附属病院をご紹介させていただきます。
